雑記
 毎年11月1日の自衛隊記念日近くに、陸海空の各自衛隊が担当を持ち回りで、観閲式(陸上衛隊)・観艦式(海上自衛隊)・航空観閲式(航空自衛隊)が行われる。観閲官は自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣で、防衛庁長官、統合幕僚会議議長、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長等と日本の防衛を司るトップが集る。そのようなことからだと思うが、この日は一般公募がなく、招待券がなければ会場に入ることができない。また、入場の時も創立記念祭などよりもずっと厳しいチェックが行われる。昨年は9月11日にアメリカで同時多発テロ事件が発生した影響で、観閲式は中止になった。そのような行事なので、見られるとは夢にも思っていなかったが、幸運なことに総合予行と本番の両日見ることができた。

 航空観閲式の始まる前に気象を見るためだろう、風船が空に飛んで行く。予行の日は青い空に白い風船が飛んで行った。本番の日は灰白色の空に黒い風船が飛んで行った。時々雨がパラつく。入場受付ではパンフレットと一緒に簡易レインコートとカイロも配付していた。飛行が危ぶまれる。
 観閲部隊が入場・整列する。陸・海・空の旗がそれぞれの部隊の前ではためく。風が強く寒い。陸上自衛隊旗は、海上自衛隊・航空自衛隊の旗と違い、二重の布で作られ、縁取りされていてとても重いのだそうだ。がんばって!と思いながら見守る。

 予定のほとんどの飛行が行われた予行日と、不安定な天候の中で行われた航空観閲式を見てわたしが思ったことは、決断ということだ。軍事用語では「決心」というのかもしれない。

 航空機の飛行は天候に左右されるのだろうということは、わたしのような素人にもわかることなのだが、わたしのような素人だからこそ、自衛隊の航空機だから飛べるのではないのだろうかと思うこともある。実際にRF-4や救難機などは任務の性格上悪天候での飛行があるそうだ。
 また、有事では、どの国も同じような装備を持っている現在では、いかに悪条件を克服するかということも勝利の鍵になるような気がする。きっとそのような訓練もなされていることだろう。
 航空観閲式のように、政府の要人、防衛のトップ、そして招待客がたくさん集っている会場で、安全性を考えた上で日頃の訓練の成果を見せる時、安全に飛行できるという自信もあり、心情的にはこの晴れの舞台に、全航空機を飛行させたいと思うのではないのかと思う。でも、実際には飛行した航空機は予定されたものよりもとても少ないものだった。

 明確な目的を持ち、状況判断をし、目的達成のための最良の方策を決定する。これは最高指揮官だけが考えれば良いことではないのだと思う。もちろん最高指揮官が責任を負うのだが、下位組織の責任者、辿って行けば参加する全ての人が、目的を認識し、状況を把握し、自分の組織の能力を考え、目的を達成するための努力をしなければいけないのだと思う。
 天候という刻々と変わるものを相手に、決まったスケジュールに合わせ決断するのには、各組織が同時に同じ情報を得て、分析、検討を正確に迅速に行わなければならないのだと思う。そのためには日頃からの訓練が必要であり、その成果を元に先を見通しての準備、心構えも必要なのだと思う。
 ひとつの目的を持って行動する場合、あらゆる状況のシミュレーションがされ、マニュアルが作られるのだと思うが、全ての人が目的を正確に認識し、同じひとつの方向に向って目的を達成する努力をするというのは、なかなか難しいことだとわたしは思う。
 ましてや、航空観閲式は陸上自衛隊部隊、海上自衛隊部隊、航空自衛隊部隊と、日頃は違う組織として活動をしている部隊が集って行われる。それぞれの部隊も小さなまとまりはいつもと一緒でも、いわば臨時編成部隊で、指揮官が違ってくるのだと思う。情報の伝達一つをとっても難しいことだと思う。わたしたちは遅延なく行われていくプログラムを当たり前のように見ているが、ひとつひとつが担当責任者の決断であり、まとめる最高責任者の決断が、正確にスムースに行われているということなのだと思う。そして、これもまた日頃の訓練・錬成の成果なのだと思った。

 たくさんの航空機を見に行くつもりだった。実際にたくさんの航空機を見た。日頃見られない基地防空の展示も見た。でも、いつもわたしの視点はそれらの装備を動かす「人」に行く。今回のわたしの視線はその人たちを統率する「人」、指揮官に向いたような気がする。そしてその後ろに、飛んで行く航空機を見守る大きな空のような、幕僚の姿がちらっと見えたような気がした。  

(2002年10月27日)